キャリアセット コラム 組織を起点にしたキャリア

個と組織を考えるキャリア・コラム 

個と組織を考えるコラム
~真にキャリアが伸びるとき~

人事の立場・管理職の経験を基にした「組織」について

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評価について思うこと

 前回まで3回にわたって人材育成がテーマでしたが、今回は人材育成とは切っても切れない「評価」について取り上げたいと思います。上司として部下を評価するとき、評価決定での迷いや、評価結果に対する部下の反応に思い悩んだ経験をおもちの方は多いと思います。人事考課制度や評価技術上の問題だけでなく、人が人を評価する難しさ、あるいは評価という権限の行使などが不安や戸惑いを生んでいるのではないでしょうか。私自身も評価に際して様々な思いをもちました。そんな経験からの気づきを綴ってみたいと思います。

 人は人をウマが合うとか、趣味が同じとか、考え方が近いなど個人的判断で評価します。人をどう評価しようがその思いは基本的には自由であり、評価が相手の不利益になることもなく気楽なものです。(悪口を言いふらして相手を貶めることなどはあってはならないことですが)しかし、上司として部下の仕事ぶりを評価(=人事考課)することは恣意的な人物評価ではありませんから、個人判断でバラバラに行うことなく一定のルール(=考課基準)に従う必要があり、大きな責任を伴います。
 初めて人事考課を行ったとき、その責任の重さをひしひしと感じたことを鮮明に覚えています。誰にも邪魔されないよう周囲に人がいるオフィスを出て自宅の自分の部屋にこもり評価作業を行いました。評価作業中ずっと自分の評価は本当に公正な評価かどうか、自問自答していました。管理職を実感するのは職務権限を行使したときだと思いますが、私は権限のパワーを感じるというより、これでいいのかという畏怖心の方が強かったと思います。そのとき実感したのは、人が人を評価することに完璧はないが、考課時期だけで評価を捉えるのではなく、常に部下の仕事ぶりを十分見聴きし、真摯に、謙虚に評価することがなにより重要なことだというものでした。この思いは、以後ずっと私の評価への基本的考え方になっています。

 評価で難しいことの一つに部下の思いより低い評価結果を伝えることがあります。部下の意に反した結果ですから当然反発が予想されます。いろいろ説明しても納得してもらえない場合も多かったものです。そのとき、私は納得は難しくても理解までは得るようにしました。つまり、評価理由を十分説明することです。十分説明すると一応評価に対する受け入れは出てきます。しかし、心からの受け入れでないこともたびたびありました。評価理由を理解しても、今度は周囲の人と自分を比較して、評価の不当性を訴えてきます。よく行動ベースでの評価スキルが習熟すれば、公正な評価ができるように言われますが、合理的対処だけではなかなか難しいものです。人間の感情はそんな単純なものではありません。むろん評価スキルの習熟を否定するものではありませんが、人は自分の正当性、防御のためあらゆることで反論してきます。そのことも常に念頭に置く必要があると言いたいのです。

 私は評価の納得性を高めるため、日々の部下との関係で二つのことを心掛けていました。一つは部下の話をおざなりにせず、正対して話を聴くということです。忙しくて手が離せない場合でも一区切りついたら必ず聴くというスタンスです。正対して聴くと部下は積極的にいろいろ話してくれます。部下からの話は仕事ぶりを知る絶好のチャンスです。そこには評価、そしてフィードバックも生まれます。フィードバックによって評価の判断根拠を共有でき、改善につながり、その結果評価も高まります。二つ目は部下との接する機会を多くすることです。そのためには部下とかかわりの少ない仕事をできるだけ効率よく片づけることです。意外と無駄なことも多いものです。会議などはその最たるものかもしれません。多くの部下も上司がいつも自分の仕事をよく見てくれる、聴いてくれる、フィードバックしてくれる思っていたようで、時には厳しい指摘も受け入れてくれました。
 部下の仕事ぶりを見ること、話を聴くことそしてフィードバックを継続して行うことは、口で言うほど決して容易ではありませんでした。しかし、つい疎かになりかけたときは、初めて評価を行ったときの気持ちに立ち戻ることで気持ちをリセットできました。納得を得るチャンスはいつでもあるのです。あきらめず、その努力を怠らないことだと思います。考課制度の不備、環境、評価スキルの不足など評価の障害はいくつもあると思います。これらの障害を嘆く前に、部下との信頼関係を醸成し、より納得感のある評価行うためには、この日常的な積み重ねが何より大切なことだと私は信じています。

(2011年9月5日)

ともに考える

 今回は私が考える人材育成3つ目のポイント「ともに考える」を取り上げたいと思います。人材育成において部下の課題や困難な状況を打破するためには「ともに考える」ことで解決の道筋を見出していくことが重要です。以下にあるベテランの営業社員の部下とのエピソードを紹介いたします。

 彼は営業の稼働量が余り多くなく、同僚からみて熱心に仕事をしていないように映ったようで、私の耳ににもそれとなく話が入ってきました。私は早速、彼と終日同行を数回行い彼の仕事振りを観察しました。終日同行を繰り返すと繕った仕事振りではなく、本当の姿が見えてきます。また、いろいろ話を聴くことで仕事や働くことに対する考え方などが知ることができます。彼は何も仕事をおろそかにしているわけではないのですが、売り上げの大きい少数の得意先へ多くの時間を費やし、担当市場の顧客カバー率が少ないことが分かりました。営業の仕事はある程度個人の裁量に任されてますので、効率的な稼働についても自分自身で考え実行するのが基本です。しかし、営業結果が全てという営業にありがちな思い込みで、彼は効率的稼働については重要と考えていなかったようです。このような思い込みがあると、上司が単に指示するだけでは行動はなかなか変わりません。彼が納得して行動を変えるためには上司がともに考え、解決策を見出していくことが重要と考えました。

 この時、取った方法は私が営業日報を1か月トレースし、半期の得意先別計画と対比させて、稼働の問題点をともに検討したことです。その結果、稼働のヌケ、モレや重要得意先への過剰な訪問の要因など具体的課題に彼自身が気づき、自ら効率的稼働プランを作成し実行するに至りました。

 「ともに考える」ことで大切なことは白紙の状態で問題を検討するのではなく、上司がある程度仮説を立て、部下が考えるきっかけを作ってやることです。つまり呼び水が重要なのです。解答の押しつけではなく、呼び水があれば真の解決策に自ら向かうものです。呼び水を用意するには上司として現状をよく把握しておく必要があります。単なる指導・指示より難しいかもしれませんし、迂遠と思われるかもしれません。しかし、部下の意欲が高まり、能力が開発されることにより生み出される成果は大きいものがあります。つくづく「急がば回れ」とはよく言ったものだと実感しています。

 私も必要に応じて苦言を呈したり、場合によっては叱責することもありますしたが、部下には受け入れてもらえたと思っています。なぜなら前々回の「よく聴く」、前回「認め、任せてみる」そして今回の「ともに考える」が人材育成のベースにあったからだと思います。そして重要なのはこの3つのポイントが根源的な価値観や考え方をお互いに尊重する人間関係の上に成り立ってこそ活きるものだということです。これからも現場での気づきから得た「よく聴く」「認め、任せてみる」「ともに考える」を大事にしていきたいと思っています。

(2011年6月30日)

認め、任せてみる

 今回は前回に引き続き、人材育成の2つ目のポイント「認め、任せてみる」について、私の体験をご紹介したいと思います。

 部下との信頼関係を築くためには「よく話を聴く」ことが第一歩です。その上で部下のやる気を引き出し、大いに力を発揮してもらうために大事なことは「認め、任せてみる」とよく言われています。しかし上司にとって「認め、任せてみる」はそう簡単なことではありません。任せることが部下の成長につながると頭でわかっていても、不安を拭いさることができずつい口を出したり、途中から自分でやってしまった経験をもつ上司の方も多いでしょう。私もマネージャーになりたてのころはご他聞にもれず同じでした。「認め、任せてみる」をマネジメントとして意識し実践するきっかけとなったのは、ある突っ張りタイプの部下との出会いでした。

 私が着任した当時、彼は業績が低迷し本社による直接指導の対象者でした。普通、業績が悪い時は大人しく何でもハイハイという人間が多いものですが、彼は違いました。業績が振るわないにも関わらず、誰もが尻込みする難易度の高い得意先を攻略できると高言していました。私はそう期待はしませんでしたが、まず話だけはじっくりと聴きました。彼の考えている攻略プランは、今までの敗因を分析し、課題を特定し、課題に対応した具体的なものでした。プランは評価できましたが、実行する彼の力量についてはまだ疑心暗鬼でした。プランと実行力は別のことと思ったからです。ただ、本社指導の対象者になったくやしさ、仕事で見返したいという思いは強く感じ取れました。さらに現場同行により彼の市場分析や攻略プランが妥当なものだとも確認ができたので、彼のプランを認め、任せることにしました。結果は見事攻略でき、彼自身は全国区のスターとなりました。

「認め、任せてみる」ことを私が決断したポイントは3つあります。

①部下の話をじっくり聴いたことで状況把握ができたこと
②部下の強い意欲が確認できたこと
③具体的実行プランがあったこと

 この3つが全て揃うことは余り多くありませんが、意欲が決断を促す一番のポイントと思います。また、私が彼の意欲を正面から受け止めたこと、「彼を認める」ことで彼のモチベーションが一層高まったと思います。私自身の意気持ちで言えば、これ以上悪くならないという開き直りが「任せてみる」ことを後押ししました。つまり、私自身も不安をもちながら守りから攻めに転じたことが功をもたらした要因の一つと考えています。「認め、任せてみる」ことはポジティブ思考の表れとも言えると思います。

 「認め、任せてみる」ことにブレーキがかかりそうになるとき、私はこの体験を思い出し、ブレーキを解除するようにしています。自律した人材の育成は、相手を認め、自分を信じ、思い切って任せてみることから始まるとつくづく思います。そのためには上司は常に部下に対しては表面だけの評価ではなく、その仕事に関する考え方や意欲をきちんと理解し認めることが重要です。そして勇気をもって任せてみる機会を一度でも体験することでマネジメントに変化が生まれるのではないでしょうか。

(2011年4月21日)

よく話を聴く

 前回のコラムで、自律性が社員のキャリアの成長を進め、ビジネスの革新と発展につながること、そのためには上司のマネジメントスタイルも育成型に変える必要があると綴りました。そこで今回は私なりに部下との信頼関係構築で心掛けていた「よく話を聴く」ことにについて取り上げたいと思います。
 「よく話を聴く」ことを意識したきっかけは、まだ営業のマネジャーになりたてで部下との関係が今一歩のとき、ある部下からの意外な一言でした。

「所長は我々の意見をよく聴いてくれますね。」

 肯定的な一言だったので、私はつかさず彼に尋ねました。

「でも、その意見を否定したときはどう思う」

 部下の答えは「話をよく聴いてくれることが嬉しい。上司が部下の意見や提案をすべて受け入れられるわけでもないことはよくわかっているし、ダメもとで話すことも多い。ただ、じっくり聴かずに否定されることが続くとと感情的にもなるし、もう話をする気にもなれなくなる」というものでした。

 私はこの経験から2つの気づきを得ることができました。、

・部下は上司に対して、意見や提案がすべて受け入れられるとは思っていない
・上司はじっくり話を聴いて欲しい、話の聴き方一つで部下の受け止め方が違う

 上司として部下の意見や提案を受け入れられないと予想できるときなど、ついNOと言いたくなくて、話を逸らしたりすることはありませんか。ダメなときはきちんと根拠を示して話せば部下はわかってくれるものです。よく話半分で答えを出したり、上の空で話を聞いていませんか。部下はそんな上司の言動をよくみて不満やあきらめの気持ちをいだきます。きちんと聴く姿勢が重要なことだと思います。

 私の経験はカウンセリングやコーチングでよく取り上げられる「傾聴」と一緒と思われた方も多いでしょう。何も目新しいものでもなく、当たり前と思われるかもしれません。しかし、口で言うほど簡単でないことも事実です。私も日常の中で習慣化するまでの苦労は並大抵ではありませんでした。機会はいくらでもありますが、その機会を習慣化のきっかけにすることが成功の鍵になると思います。私のきっかけはたまたまだったのかもしれませんが、目からウロコが落ちた気がしたものです。それ以後は「よく話を聴く」ことを常に心がけていますし、部下育成の第一歩であると実感しています。

 次回は、部下育成における2つ目の気づき「認める」についてお伝えします。

(2011年2月19日)

自律性について

 昨今、よく自律性という言葉を耳にします。自律性(自ら考え、自ら行動する)を採用基準や社員の行動指針としている企業が多いようです。自律的であることは、自分自身の存在意義を確固としたものにすることであり誰しも異論はないでしょう。しかし、実態はスローガンや単なるかけ声で終わっていることも多く、企業にとって社員の自律的行動が何をもたらすのか、具体的に語られることも少なく、人財開発としてあまり実践されていないようです。

 景気が悪くなり打つ手がなくなったりすると、企業は自律性を都合よく解釈し、社員に対して自律的な対応を求めたり、上位下達の指示が思わしくない結果を招くとすると、社員の自己責任を強調したりすることがままあります。また、組織が大きければ大きいほど、社員は上からの指示を待ったり、言われたことやってればOKという受身の意識、姿勢が強く、自律的な行動を避ける傾向があるように思われます。これでは企業、社員双方とも自律性がもたらすことが何かをきちんと理解していると言えないのではないでしょうか。

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 自律性ということで、私の経験を紹介したいと思います。私が新任の営業マネージャーとして赴任したときのことです。担当営業所は長年業績不振で苦しんる地区で、大変なところに来てしまったなあというのが実感でした。部下たちは元気もなく、投げやりな態度を取るものも見られ、営業所の士気は最悪でした。不振の理由は部下達だけの責任ではなく、市場環境、営業戦略、リソースの投入量の問題など様々な要因が絡んでいました。しかし、会社は結果責任だけを追求し、部下達はとにかく自分を守るためにミスを犯さないことだけに汲々としている状況でした。私自身も含めて営業所全体モチベーションを上げることが最優先事項と考えました。打開策は私自身のスランプ脱出法がヒントになりました。

 組織でも個人でもスランプに陥ると、環境のせいにしたり、自分の不運を嘆いたいりなどして、いたずらに時間が過ぎてしまったりするものです。私自身はこのようなとき、とりあえずすぐに解決できない環境や将来の不安は横に措いて置き、自ら背伸びすれば届く目標を立て、仕掛けを作り、実行するということを徹底したものです。他人の指示ではなく自ら決めたことに集中することで雑念を忘れさせることができますし、何かしらの前進はあります。結果的に期待値に届かなくても、前進があれば会社はそれなりに認めてくれるものです。悶々として停滞しているよりよっぽどましだと思うと、自分の気持ちが自然と前向きになり、仕事への意欲も快復します。このような体験を是非、部下達にも味わってもらい、モチベーションにつなげてほしいと考えました。

 具体的にはマネジメントスタイルを従来の指示型マネジメントから参加・育成型マネジメントに変えました。「上司は大まかな方向性を出す、部下の裁量に任す、見守り育てる、最終責任はもつ」というものです。私にとって従来型のラインマネージャーは反面教師であり、自分がラインマネージャーになったら変えてみたいという気持ちも強かったと思います。マネジメントスタイルの変更はそのときの私自身のモチベーションにもなりました。これ以上落ちることはないという業績不振地区だからリスクが取りやすかったことも幸いしたかもしれません。

 結果的には部下達の自律性が高まり、モチベーションも向上し、業績向上につながりました。具体的成果として、部下たちは、市場規模・特性に合わせた目標設定、顧客パターン別のアプローチ方法、効率的稼働プランに沿った営業活動、プレゼンテーションの工夫など自ら考え、実行できるようになり、私の経験のない新しい営業のプラクティスも生み出しました。また、徹底してチームで目標やプラクティスの検討・共有する場を設けたこともお互いの切磋琢磨、組織のベクトル合わせにつながったと思います。私自身、このような経験をその後も積み重ねたことで、自律性が人のやる気を引き出し、能力を高める根本であることを学び、今のキャリアコンサルタントの仕事につながったと思っています。

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 働く意欲に大きな役割を果たす自律性が、現実問題として社員の職務行動においてあまり発揮されていないとすればどうしてでしょうか。「自ら考え、自ら行動する」前に、「何のために、どんな目標で」という組織、個人双方の仕事の意義・目的が不明確なまま仕事をしていることが多いからだと思います。この仕事の意義・目的が曖昧であれば、仕事の目標は単に押し付けられたものとなりますし、自ら納得するものとはならないでしょう。仕事の意義・目的は企業のビジョンや理念、もっと広く言えば社会への貢献・責任と結びつけて考えることが重要です。それは自分の担っている仕事のレベルまで因数分解すること、すなわち自分の具体的仕事を上位の概念で照らしてみることです。そして企業は社員に任せる勇気、社員は自ら決めるリスクを恐れないことも大事です。

 現在のように激しく社会構造が変化している状況では、新しいビジネスモデルもすぐ陳腐化し、必然的に新しいビジネスを創造していかなくてはなりません。創造性や革新性は多用な一人ひとりの社員の働く意欲から生み出されるものです。その意味でも自律性はますます求められますし、働く意欲にとって重要となるでしょう。企業は人材戦略として社員の自律性を引き出し任せる仕組み、自律的人材の育成や環境整備が急務ではないでしょうか。個人にとっては、自律性を発揮するチャンスが広がったことはキャリアの成長につながりますが、目標を設定する力、新しい仕事を遂行するためのスキル・知識の修得とともに将来を見通す力、リスクにチャレンジする勇気が求められるでしょう。先行き不透明な今こそ、ビジネスの革新と成長、個人のキャリアの成長の観点から、仕事の場でもっと自律性について深めていく必要があるのではないでしょうか。

(2010年12月13日)

就職戦線に思う

 2011年新卒者の就職活動も10月1日の内定式を終え、ひとまず終息に向おうとしています。しかし、リーマンショック以降の雇用情勢の悪化に伴い、昨年、今年の就職状況は大変厳しいもので内定率も過去最低の見込みです。キャリアのスタートである就職において、学生は就職戦線という言葉を、現実をより一層厳しくする響きと感じたのではないでしょうか。

 ところで就職戦線という言葉ですが、1991年の映画「就職戦線異常なし」を機に、メディアで盛んに使い出したと記憶しています。売り手市場か買い手市場かで学生と企業が攻防を繰り広げる状況を戦線と例えたのでしょう。さらに、チャンスは一回だけという新卒一括採用のあり方と相まって、この言葉は悲壮感をより一層助長しているように感じられます。高度成長期に就職できたせいもありますが、私はキャリアの大きな節目である就職に、戦線という言葉を当てることに大きな違和感を覚えます。みなさんはどうでしょうか。

 現在の厳しい新卒採用状況から、国は新卒採用も大学4年時の1回限りの機会から卒後3年までとするよう緊急経済対策の方針に盛り込みました。強制力や罰則規定はなく、どれほど実効性が上がるか不明です。
グローバル化の進展、高度成長時代の終焉、価値観の多様化など経営を取り巻く環境は大きく変化しています。当然、人財(人材)要件も変化しますし、それに伴い人財の確保、育成方法も変わらざる得ません。最大の経営資源である人財の観点から、企業はむしろ就職戦線と例えられる要因にもなる新卒一括採用を積極的に見直すよい機会ではないでしょうか。

 新卒の就職だけに限定せず、既卒、中途も含めた新しい採用の枠組みを構築することで、企業はこれから必要とされる人財を採用でき、求職者は自分の能力、適性に見合った就職の機会を広げることができるようになるでしょう。その結果、新しい仕組みは組織の発展と個人のキャリア成長との融合を加速させるに違いあいません。就職戦線に変わって、この新しい就職状況にふさわしい言葉が生まれることを期待したいと思います。

 (2010年10月5日)

本コラムは、2010年10月より2011年9月に、弊社コンサルタントにより綴られた内容です。

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