コラム「物語をキーワードにキャリアを考えてみよう」

HOME > コラム「物語をキーワードにキャリアを考えてみよう」

前回のコラムでは、物語とは何かを確認し、私たち人間にとって非常に身近な存在であることを取り上げました。

今回は、戦後から現在までの日本社会を物語という視点で考えてみましょう。

ご存知の通り、戦後の日本は高度経済成長によって復興を成し遂げました。
この背景には、理想の生活としてアメリカの家庭生活が提示され、理想に向かって日本全体が大量生産・大量消費を行ったという一側面があります。

例えば「今月のボーナスでいよいよ洗濯機が買える。どんなに便利な生活になるのか。空いた時間はデパートにでも行こうか。楽しみだ」という会話があったことでしょう。

これはつまり、「生産も消費もアメリカに追いつき追い越せ」という日本復興の物語があったと言えるのではないでしょうか。

このような「国家や人類の進化・発展を前提とした、大多数の共有を志向する物語」のことを、フランスの哲学者リオタールは「大きな物語」と名付けました。

復興後、高度経済成長は終わりを告げます。一通り理想の生活が実現したことで、「大きな物語」を読み終えてしまいました。

すると、消費が個人化・差異化・多様化へと向かったように、一人一人の個性を重視するように社会が少しずつ変わり始めます。

物語もドラマ・映画・マンガ・ドキュメンタリー等、数多くの中から自分自身の興味に合う身近な物語に大きな関心を示すようになります。これらの物語を「大きな物語」に対して「小さな物語」と名付けましょう。

図1のように、「小さな物語」は高度経済成長の時代にも存在していました。しかしながら、「大きな物語」の影響が強かったために、その存在がクローズアップされてこなかったと考えられます。

第2回コラム 図1.jpg

これ以降「小さな物語」が主流となりますが、現在はSNSの普及もあり、図2のように「小さな物語」や様々な体験・経験から、個人がオンリーワンの「小さな物語」を創ることも多く行われるようになってきているように思われます。

第2回コラム 図2.jpg

例えばSNSで仲間を集い、ハロウィン等のイベントに一緒に参加する。そこでの体験をSNSに写真等をアップし、物語化して共有し合うといったことが挙げられるでしょう。

「小さな物語」を読み込む上に、物語を創ることも行っている。物語の量という点では、ますます増え続けていると考えられます。まるで社会は物語であふれているように見えてきます。

ここから筆者は、多種多様な物語が日々無数に創られ、ひしめき合い、個々人に影響を与えている社会を「物語社会」と名付けました。

では「物語社会」は消費や生活面だけでなく、働き方やキャリアにも影響を及ぼしているのでしょうか。

高度経済成長の時に確立した「日本型雇用制度」という「大きな物語」は転換期を迎えており、雇用の流動化・柔軟化が進み、非正規雇用者・フリーランスで従事する方々が増えていることはしばしば報道されています。

この労働環境の変化に対応するために、個々人のキャリアという「小さな物語」を節目節目で考え、創り上げ、時に発信することが重要になってくると考えられます。

この点を踏まえつつ、次回は、「物語社会」の中でどのように人は自らの物語を創るのか、考えてみたいと思います。

(2018年4月13日掲載)

皆様、初めまして。澤邉大樹と申します。

まずは自己紹介。
筆者は学生時代に社会学を専攻する中で「物語」というものの見方に
興味を持ち、人・社会における「物語」の影響を考え続けています。
一方で、大学時代に履修した産業心理学をきっかけにキャリアへの興味も持ち始め、
こちらは大学卒業後に本格的に学び続けています。

2つの分野を学び進めるうちに、ある日ふと思いました。
「キャリアを考えることは物語を語ることそのものではないだろうか」と。

今までは別々に考えてきた「物語」とキャリア。
両分野の融合を試み、そこから新たな考え方や視点を探っていきたいと
思っていたところ、本コラムの依頼を受けました。

今回から6回にわたって、「物語」をキーワードに、広くキャリアについて考えてみよう
と思います。どうぞよろしくお願いいたします。

早速ですが、皆さんは「物語」と聞いて、具体的に何を思い浮かべるでしょうか。

桃太郎や浦島太郎と言った昔話でしょうか。源氏物語や枕草子と言った古典でしょうか。
舞姫や蹴りたい背中と言った小説でしょうか。
あるいはテレビやインターネット動画で配信されるドラマやドキュメンタリーでしょうか。
それともお気に入りの映画でしょうか。

他にも様々な物語が思い浮かんだと思われます。物語と一口に言っても多種多彩。
日常生活ではよく見かける言葉ですが、改めて物語とは何かと考えてみると、
実は範囲が広く捉えどころのないように思われるのではないでしょうか。

そこで本コラムでは、どの物語にも共通するエッセンスを抽出し、
「物語」を「時間軸に沿った2つ以上の出来事を結び付けて組み立てる語り」と定義します。
先ほど皆さんに思い浮かべて頂いた物語も、
この定義に当てはまった展開がされているはずです。

さて視点をご自身の日常に向けてみましょう。
知らず知らずのうちに「物語」を創っていませんか?
例えば営業マンが社内で同僚に、

『昨日の午後、得意先に新商品の提案のために向かう電車の中で、
違う資料を持ってきていたことに気付いて。慌てて引き返したんだけど、
その時に転んでしまって膝を擦りむいてしまったよ。
応急処置をして、得意先には何とか間に合って、
提案は好印象だったからよかったけど、
外出前に資料を確認するべきだと反省したよ』と話した。

これも「物語」と言えるでしょう。日々生活していると、些細なことであっても様々な
出来事が起きます。その出来事を周りの人々に伝える。
その際に、私たちは「物語」を創っては語っているケースが意外と多いのです。

皆さんも例えば、昨日の1日を振り返ってみてください。
そしてそれを身近な人に話すことを想定してください。
「物語」を創っている方がきっといらっしゃると思います。

このように考えると、私たち人間と「物語」は非常に密接な関係にあり、
空気のような、とても身近にある存在だと言えるでしょう。
人は「物語」なしでは生きていけないと言っても決して過言ではないかもしれません。

では、この「物語」が私たちにどのような影響をもたらしているのでしょうか。
次回以降、人・社会・文化そしてキャリアと幅広い観点から
掘り下げていきたいと思います。

(2018年2月7日掲載)

★筆者プロフィール★
澤邉 大樹(さわべ たいき)
東洋大学社会学部卒業。専門分野は、消費社会論・メディア論・大衆文化論。
卒業論文では、社会学の観点から「物語」が社会にどのような影響を与えているのかを探求。
卒業後は、IT系企業勤務を経て独立。様々な事業を手掛ける傍ら、早稲田大学、同オープンカレッジにてキャリアについて学び、キャリアを「物語」という視点から探究している。
2017年、オープンカレッジにて修了論文「物語社会の実際 -人はいかにキャリアを物語るのか-」を執筆。















株式会社キャリアセット
CareerAsset, Inc.